母校一橋大学の同窓会「如水会」の末端理事をしていた15年前、月1回開かれる理事会に初めて出席した時、「なんでお前がここにいるんだ!」と不規則発言をしたおじさんがいた。当時の学長の石弘光さんで、税制の取材で以前から見知っていた。学長も「如水会」の平理事を務めることになっている。で、「俺も理事の一人。学長と同格だもんね」と切り返したことがあった。 緊縮財政派で政府税調の会長も務めた石さんは伝法な口調のザックバランな性格で、税制の取材だけでなく、政策情報誌で国立大学改革の大きな原稿を書いた時は全面的に協力してもらった。 その石さんからまだ餃子の都にいた今年の3月、メールをもらった。フェーズ4の重いすい臓がんにかかった。最新の『中央公論』に寄稿したので状況はそれでわかる。闘病記を竹橋の新聞社から出版してほしいので、誰か紹介してくれ、という内容だった。 俺はオヤジを同じすい臓がんで亡くしているので他人事とは思えない。3月号の『中央公論』を読むときわめて意気軒昂な患者なのであった。それで、竹橋の出版セクションにわたりを付けると、社長のKくんが「話は担当者につなぐが、くれぐれも出版できると先生に確約しないでほしい」。結局、竹橋からの出版は採算が取れそうにないと断念。医療専門の出版社からこの秋、闘病記が出ることになった。 きのうのお休みは石さんから呼び出しがあり、竹橋の同窓会館で昼飯をゴチになった。抗がん剤治療でツルッパゲになった80歳の石さんは、目の光が病気を抱えている人とは思えないほど強く、ヤクザの親分のような風情だった。「俺にも見栄ってのがあって、外出時は帽子をかぶっているんだ。病気を隠す奴もいるが、そんなことしてもなぁ」。 先生は食欲も旺盛でてんぷらそばを平らげ、珈琲で小一時間歓談。高齢者医療負担で国家財政は破綻するだの、年々予算がカットされる国立大学の現状への嘆きを語られた。「校閲の仕事で労働力を切り売りしている実感がある」と言ったら、大経済学者が笑っておられた。本が出るまでは元気でいてくださいと言おうと思ったが、そんな必要はなかった。「本が出たら買います」と言ったら「馬鹿野郎、贈呈するよ」だと。 |
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