今年の本は117冊。社会人1年目に読んだ山口瞳の「酒呑みの自己弁護」から計4160冊。たいしたことないなぁ。年々お手軽な本が増える。その中から俺のベストテンを挙げると以下の10作品となった。 第1位は馬場マコト・土屋洋著「江副浩正」。リクルートの創設者、江副の生涯を同社の社員だった著者が克明に追った。リクルート事件でミソをつけた江副だが、東大在学中から始めた事業は独創的なもの。今ならソフトバンクの孫正義みたいな存在か。しかし、その末路は東京駅で倒れ、頭を打って亡くなるという哀しいものだった。一度だけインタビューしたことがあるのだが、オーラはなく鼠男のような印象だった。しかし、今、江副といっても若い人は知らないだろう。経済分野のことは10年もたてば色あせてしまうのだ。 2位は佐藤優著「十五の夏」。元外務省主任分析官で、ソ連の要人に食い込んでいたことで名高い佐藤は、浦和高校入学のお祝いで、高1の夏、ソ連・東欧をたった一人で旅した。その42日間の記録で、少年の目に映る外国の姿がベラボーに面白い。佐藤の記憶力の凄さにも舌を巻く。 3位は三浦しをん著「風が強く吹いている」。12年前に出た本で読書感想文の課題図書とするため読んだ。弱小駅伝チームが箱根駅伝出場を目指すお話。しをんさんの取材は行き届いており、ぐいぐい引き込まれる。俺は箱根駅伝は視聴しない人間だが、大学駅伝ファンにはお薦めの本。 4位は山極寿一・関野吉晴著「人類は何を失いつつあるのか」。2年ほど前、Eテレで放送された京大総長でゴリラの研究家、山極氏とグレート・ジャーニーの大冒険をした関野氏の「スイッチ・インタビュー達人達」は非常に面白かった。その二人が文明の発達で人間が忘れてきたものを語る。スケールの大きな本。第5位は菅野仁著「友だち幻想」。これは10年前に出版された新書。教育学者の菅野氏は娘が小学校でいじめに遭っているのを知り、友達なんか作らなくていいと娘に語りかけるようにこの本を執筆した。その娘も菅野氏も病気で他界し、この名著が残った。いまもじりじりと売れている。 以下は順位があってないようなものだが、第6位が前野ウルド浩太郎著「バッタを倒しにアフリカへ」。前野氏は昆虫学者。バッタを求めてアフリカのモーリタニアに渡る。若き研究者の前向きな精神に好感が持てる。第7位が三浦しをん著「ののはな通信」。全編二人の女性の手紙のやり取りからなる小説。この二人、ちょっとわけありなのだが、高校時代から二十年以上にわたる手紙のやり取りで作られた物語は、しをんさんの力技を感じさせる。 第8位が永野健二著「経営者」。伝説の経済記者が昭和・平成の経営者の実像に迫った。ヤマト運輸の小倉昌男、京セラの稲盛和夫の点数が高いが、ワンジェネレーションたてば経済人など記憶の片隅に追いやられるのだろうな。第9位が沢木耕太郎著「銀河を渡る」。エッセーの名手、沢木のこの四半世紀のエッセーを集めた。高倉健とのエピソードがいい。第10位が池永陽著「下町やぶさか診療所」。読んだばかり。いいシリーズになりそう。池永はもっと注目されてよい作家だ。 × × × × 今年もご愛読ありがとうございました。新春は7日に再開の予定です。皆さま、よい年をお迎えください。 |
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