お花屋さんとの付き合いは長い。福島支局から東京本社の社会部に上がって、八王子支局をへて警視庁回りになったとき、連日サツカン(警察幹部)宅への夜回りの生活となった。ひとんちに夜な夜な押しかけるのだから、手土産が欠かせない。先輩から「酒は持って行ってはダメ。サツカンの方が高いのを飲んでいる」と言われ、はてと考え行き着いたのが花束である。 俺が警視庁で担当したのは警備公安で、夜回り相手は上級職のキャリアが多く、「将を射んと欲せばその馬を射よ」で、花束は奥方に喜ばれると思った。加えてお花は値段が分からないのがいい。夜回りのハイヤーをよく日比谷花壇の近くに停めたものだ。 経済部に移ってからは「夜回りに”ブツ”はいらない」とのことで、経済的にずいぶん助かった(ブツは自前なんである)が、何度も押しかける高級官僚のところにはそうもいくまいと、時折は花束を届けた。昨年亡くなった元大蔵事務次官、O氏がまだ課長時代、奥さまにバラの花束を差し上げたら「まぁ、うれしい。ちょっと切らしていたから」と言われ、こんなしゃれた言葉はなかなか言えるものではないと感心したのが、きのうのことのように思い出される。 今、俺が自宅用に毎週花を購入しているのが、国分寺駅ビルにある「青山フラワーマーケット」である。ここは毎日のように、今日のコーナーとして飾っている花を入れ替えているところがすごい。買わなくてもきょうの花を見るのが楽しみだ。 昨年の夏ごろだったか、真紅のバラ「サムライ」を求めたら、美女店員が「あら、ピンクのじゃないんですか?」と言う。どうも毎週ピンクのバラを買う変なおじさんと仲間内で有名になっていたみたい。で、美女と話をするようになった。胸に付けているネームカードがよくある苗字だったので、ファーストネームを尋ねたら、これまで原稿に書いたこともない「ひいず」ちゃんというのだった。「日出ずるところの天子」にちなんだものらしい。それからひいずちゃんとの花談義も青山フラワーマーケットに寄る楽しみとなった。 ところが、そのひいずちゃんが今月末で勤務場所が変わることになった。花屋の美女がいなくなるのは誠に残念なことである。今週の拙宅の花は深紅の「サムライ」に、ひいずちゃんが選んだ黄色のリシアンサス「キティラ」と白いスイートピーの取り合わせである。どこかの国旗の色にこんなのなかったっけ。 |
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