原田マハのアート小説を知ったのは、ピカソの「ゲルニカ」をミステリー仕立てで扱った「暗幕のゲルニカ」(2016年刊)が2年前の本屋大賞の候補作になった時だ。宇都宮の大型書店でよく立ち話をしていたベテラン書店員さんから「私はこれがイチオシ」と聞いて読んでみる気になった。 17年の本屋大賞は直木賞も取った恩田陸さんの「蜜蜂と遠雷」になったが、「ゲルニカ」もなかなか面白く、以来ルソーの「夢」を取り上げた「楽園のカンヴァス」(08年刊)、バーナード・リーチの一生を描いた「リーチ先生」(17年刊)、ゴッホを取り上げた「たゆたえども沈まず」(同)などを次々に読んできた。 マハさんは美術館のキュレーターをしていた経験があり、ニューヨークの近代美術館で働いていたことがあるから、絵画にまつわる諸々がウソっぽくなく、ついついその絵の前に立っているような気になる。そのマハさんに17年6月に集英社新書から出た「いちまいの絵」というのがある。生きているうちに見るべき名画26点を紹介している。 彼女が大作を編み出したルソーの「夢」、ピカソの「ゲルニカ」、ポロックの「Number 1A」や短編で取り上げたモネの「睡蓮」(ジヴェルニーの食卓)などが、カラー写真付きで制作の背景などが記されている。26点の絵のなかで日本人の画家で取り上げられたのは東山魁夷の出世作「道」のみ。1950年の作品で、荒野にただ1本の道が上に向かって伸びている単純な構図だ。この新書を読み終わった時、マハさんはいずれ東山の「道」をテーマにした小説を書くのではと直感した。 おととい、昨年11月に刊行されたマハさんの短編集「常設展示室」を読み終わった。なんとそこには17年、18年に発表された絵にまつわる短編に交じって、08年に発表された短編「道 La Strada」が収録されていた。ただ一筋に絵を追い求めた兄と、家庭の事情で別れ別れで育てられ、長じては美術評論家になった妹の再会を取り上げた佳品だった。 マハさんはこの「道」でアート小説に進むべき道を見出したかのように思えた。俺、画家の中では東山魁夷の絵が一番好き。もう「道」は11年前に書いちゃったし、東山は国内に関係者もかなり存命だから、長編は書かなくてもいいかなと思ったのでした。
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