自民党総裁選は地方組織に強い石破茂元幹事長(64)が立候補しないことになった。石破は河野太郎行革担当相(58)にすり寄る形となり、河野と真っ先に手を挙げた岸田文雄前政調会長(64)との争いとなりそうな情勢である。マスクで半分顔を隠している高市早苗(60)はシンゾーくんのおもちゃみたいなもんだろう。 ひと月前はよもや菅が総裁選に出ないとは誰も思わなかったのではないか。それが8月22日の横浜市長選で、自分が推した小此木八郎前国家公安委員長が大敗し、党内若手から菅がトップでは秋の総選挙を戦えないとのムードが高まり、出馬断念に至った。まったく政治の世界は一寸先は闇だね。この菅の退陣を見越したかのような本を先週読んだ。 10日に発売された文芸春秋社刊の森功著「墜落 『官邸一強支配』はなぜ崩れたのか」である。森氏は「菅義偉の正体」などの著作のあるノンフィクションライターで、安倍政権が重用した官邸官僚の力関係や菅の実弟、秀介、長男正剛など菅ファミリーの蹉跌に詳しい。そこは置いておいて俺がこれは?と思ったのが、昨年の文化功労者の選定である。 文化功労者は文化勲章受章の有資格者となる栄誉で、年間350万円の年金が生涯支給される。2017年の文化芸術振興基本法の改正で、「振興」が取れ、文化芸術そのものの振興の功労者に限られていた選考対象が、観光などの関連分野の活動にも広がり、18年にはメセナで活躍している資生堂の福原義春氏やキッコーマンの茂木友三郎氏が選ばれた。 その流れで昨年、ペア碁の普及やパブリックアートの普及に尽力したという理由で、ぐるなびの滝久雄会長(81)が選ばれたというのだ。ぐるなびの滝なんてこの本を読むまで全く知らなかったが、滝はJRの広告事業とともに「交通文化事業株式会社(現エヌケービー)」の業績を伸ばし、96年に初当選した菅とも深い付き合いがあり、ななりの献金をしてきた。 森氏は永田町界隈では菅が首相になった直後だけに「お手盛りの文化功労者」という見方が多いという。自分の意に添わぬ学者を「総合的・俯瞰的」というだけで、日本学術会議のメンバーから外したり、近しい人間を文化功労者にしてみせたり、こういう強権的な人事は菅の得意芸ともいえるが、権力を握っている人間はこういうことは厳に慎まねばならないのだ。 |
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