隠居志願のつぶやき2017

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...... 2021年11月11日 の日記 ......
■ 「亀」の作者の死   [ NO. 2021111101-1 ]
 拙宅のリビングの壁には、友人ナンコ―の曼陀羅のような絵、ボタニカルアートの豊永ゆきさんの白いデンファレの絵と並んで、「亀」と名付けている篆刻の作品が飾ってある。亀甲の形に「曳尾於塗中(尾を塗中に曳く)」という文字が刻まれている。これは三十年来の知り合いで、かつて大三越の広報ウーマンだったM嬢の旦那様で、書家の計良袖石氏の作品である。
 十年ほど前の個展でこの作品が気に入り、安く譲ってもらった。楚王から仕官を求められた荘子が、「亀は殺されて占いの用に立てられて大切にされるより、泥の中(塗中)に尾を曳きずってでも生きる方を望むだろう」と言って断った故事に由来する文言だ。
 M嬢とは流通担当の時に知り合い、彼女なら座がおかしくはなるまいと、某政府高官を囲む会にずっと参加してもらった。その流れで12年前の春、もう一人の高官の伊豆の別荘を訪ねた一泊旅行で、袖石氏ともご一緒した。さっきその時の写真をアルバムに探したが、袖石氏、M嬢、国営放送の解説委員をしていたYくん、彼が囲む会に連れてきた高橋美鈴アナご夫妻も写っている。みんな若かった。
 袖石氏には、彼の知人の書道展の作品写真を送ってあげたこともあり、お礼ということで「風信雲書」の印をプレゼントされたこともあった。その袖石氏が4年余のがん闘病をへて、先週末みまかった。病気のため5年に一度開いていた個展もできなかった。M嬢の哀しみはいかばかりだろう。いつかは来る日と覚悟はしておられたのだろうが、享年66は若すぎる。
 コロナ禍、群馬県での葬儀ということで、明日あさってのお別れの式にはお花だけ送ることにした。M嬢の実家の群馬・伊勢崎の方が書家に必要な広いスペースが確保できると、都内から引っ越し、M嬢はずっと新幹線で大三越やその後の会社に通勤していて「愛は時空を超えるね」と冷やかしたこともあった。その旦那様が亡くなってしまったのだ。
 しかし、芸術家は作品が残る。俺も「亀」の篆刻を見るたびに、「風信雲書」の印を絵葉書に押すたびに、袖石氏のことを思い出すことになる。それにしても自分より年若の人の死はこたえる。どうぞ安らかにお眠りください、計良袖石さん。合掌。

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