ポ・ト・フというフランス料理の存在を知ったのはもう40年も前か。開高健、谷沢永一、向井敏の対談をまとめた本のタイトルに「書斎のポ・ト・フ」というのがあり、肉や野菜などを煮込んだアツアツの西洋鍋とのことだった。しかし、これまでポトフ料理を食したことはなかった。そのポトフに、ひと際冷え込んだ昨夜、初めてありついた。ゴチになったから、一層うまかったのである。 アルバイト先の身元保証人になってもらっている二女のところにこの半年の行状報告に行き、そのついでに言うなれば、たかったのである。ほら、藤沢周平の市井ものによくあるストーリーを地で行ったのだ。大店でけなげに働いている娘のところに、食い詰めた父親が押しかけ、なにがしかの銭をせびるというお話。「おとっつぁん、博打に使っちゃ駄目よ」ってなセリフがあったなぁ。 年の瀬で出版社に勤める二女は何かと忙しい。先週、しばらく顔を見ていないからと面談をお願い。彼女が編集した「校閲ガール」(宮木あや子作)がきっかけとなり、週3の校閲ボーイになった父親の現状を説明したいと持ちかけ、面談場所が東京で唯一、ポトフの店の看板を掲げている新宿の「J」と相成ったのだ。 地下鉄丸ノ内線新宿御苑の駅からほど近い「J」はすぐ見つかり、約束した時間の5分前に着くと、二女はいつもの高校生みたいな格好でもうカウンターにいた。俺は牛肉スープに豚の腕肉、二女はパクチーを散らしたスープに牡蠣のポトフを注文。ゴロっと入っている北海道産のジャガイモとか大きなニンジンなど食べきれるかなと思ったが、2人ともデザートまで完食した。 その場で、年金生活入りしたので、正月は「ボンマリアージュ」の高いおせちは購入しないと告げたら「えーっ!正月に西国に行くのは止めようかな、それとも何かおいしいものを買って行こうか」だと。後者で願いたいものだ。彼女が作家デビューを手伝った栃木出身の若手作家の本がテレビ化されたのをきっかけに、2年前書きためてもらっていた原稿を出版したら、栃木の新聞社が大きく取り上げてくれただの、ヘイト・スピーチに対するカウンター行動に出かけているなど、政治色を強めている印象だった。 お勘定の段になり「ご馳走になってよろしいでしょうか?」と言ったら「もちろん」。店のママは俺が払うもんだと思っていたみたいで、その表情の変化が面白かった。「新宿まで歩こうか?」と言うので「若いねぇ。寒いし、地下鉄に乗ろうよ」。二女は30台とは思えぬ可愛らしいアップリケのついたマフラーをしていたのでした。 |
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