俺が校閲のアルバイトに行っている大手PR会社では月1回「新聞・雑誌」「テレビ」「WEB」業界などのトピックを十数ページにまとめたレポートを作成し、お得意さまに配っている。「このレポートの校閲には一番気を使って」と上司から指導されているのだ。 このまとめモノの一つに「コンフィデンシャル・レポート」というのがあり、政府や業界の裏話を毎月、2、3項目、おそらくは第一線の新聞記者に書いてもらっている。先日このレポートの校閲をしていて、笑ってしまった。”吠えない番犬”と長年、揶揄されてきた公正取引委員会のこのところのプレゼンスが目立ち、業界の一部から2期目に入った杉本和行委員長に対し「もうお引き取り願いたい」という声が出ている、と書かれていたからだ。 この杉本氏は、俺が大蔵省を担当し始めた83年には、予算を作る主計局総務課の課長補佐で、毎日のように顔を合わせていた。姫路西高を69年に卒業。この年大学紛争で東大入試は中止になったため、いったん京大に入り、翌年東大法学部に入り直し74年に大蔵省に入省した。 主計畑を歩んだが、中小金融課長も務め、金融の世界も知っている。森喜朗首相の秘書官も務め、主計局長から08年に財務事務次官になった。退官してからは東大で教鞭を取ったり、みずほ総研理事長を務め、13年3月に公取委の委員長になった。俺が知っている霞が関で禄を食む現役の役人では数少ない一人で、「たまには顔を出せ」と言うので、この春厳重な警戒をかいくぐって、委員長室で1時間ほど雑談をしてきた相手だからだ。 お引き取り願いたいと言われたのは、リニア工事にかかわる大手ゼネコンの談合を摘発したり、九州の地銀の合併構想に待ったをかけたり、ケイタイの4年縛りに疑義を唱えたり、このところ公取の存在感が増しているためだ。 35年前に比べれば、そりゃぁかなり老けた杉本さんは、おしゃべり好きなところに変わりはなく、応接セットの大きな机の上には米大リーグのナショナルズの野球帽とボールが飾ってあった。「外国からのお客さんに『ルールは守ろうよ。でないと野球は成り立たない』とこれで説明している」のだとか。 後輩の福田淳一のセクハラについて尋ねると「はめられたんじゃないの?」と言うから「二次会に女性記者をケイタイで呼び出すようなことは、あなたはしなかったでしょ」と反論したのでした。 |
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