おとといの休日は竹橋の会社のOB総会に出かけた。ふだんはそんなたいそうなところに顔を出す柄ではないが、総会の前に作家、北方謙三(72)の講演があると言うので、大枚3000両を払って講演を聞きに行ったのである。講演が終わると同時に会場を抜け出したが、かなりの人から「あれ、帰っちゃうの?」と言われたなぁ。 ハードボイルドはちょっとと思っていたため、北方の本に手を出したのは割と遅い。06年の司馬遼太郎賞を取った「水滸伝」(全19巻)が面白いというのを聞きつけ、集英社文庫で読みだしたらベラボーに面白い。5巻まで文庫を読んだらもう3カ月に1冊出る単行本に行くしかなかった。これは腐りきった北宋を倒して新しい国を造ろうとする志ある人間たちの大スペクタクル。百人以上登場人物がいるが、漢字で書かれる中国人名のため、読み進むのに抵抗はなかった。 そして、その志を継ぐ者たちの「楊令伝」(全15巻)、日本やタイとの交易も行っていく「岳飛伝」(全17巻)も刊行されるたびに読みふけったのだ。「大水滸伝」全51巻の間には、吉川英治文学賞を取った「楊家将」上下巻や「史記武帝記」、九州を舞台とした「武王の門」などにも手を出した。 講演は中大の学生時代、学生運動で逮捕された話とか結核にかかりロクな就職はできないと小説家を目指し、十年間は書き続けようやく本になった時の喜び、同世代の中上健次、宮本輝が持っていた世界にはかなわないが、自分には物語の面白さが書けると踏ん張った若き日の思いや、父親が亡くなった時、その机の中から北方の著書が全部出てきて「読んでやがったんだ」という下りが胸に響いた。 北方の腕時計には日本時間のほか、是非とも行ってみたいというコートジボアール、アンデス山脈のペルー、タクラマカン砂漠の現地時間が表示される4つの文字盤がついているのだとか。この前出かけたモンゴルでは馬に乗って1週間の旅にでたが、途中、食糧がなくなり連れて行った羊を自分で絞めて、大地に血の一滴も落とさないようにさばいて食べたという話が非常に面白かった。 いま北方はチンギスカンの生涯を描く「チンギス記」を書き進めている。どうしようかな、と思っていたが、講演を聞いたからには、3冊まで出たこのシリーズも読まずばなるまいな。
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