大昔担当していた警視庁公安部の仕事の手口にゴミあさりというのがある。マル対(捜査対象者)の家のゴミ出しをマークし、ビニール袋に入れて集積所に捨てられたゴミ袋をかっぱらい、中を子細にチェックする。インテリゲンチャは大事なことを紙に記録する癖があるから、ゴミ袋の中の紙片から動向を分析するわけだ。いまならパソコンの記録ということになるか。 過激派の中には、水溶紙という水に入れると書いた内容が消えてしまう紙を使うのもおり、家宅捜索で踏み込んだ時に書類をバケツに突っ込まれないようにする攻防があったとか。 この前の日曜日は東京競馬場でG1天皇賞が行われた。5月のダービーほどではないが、G1に勝った名馬たちが多数出走するとあって、9万人を超える大観衆が集まった。俺も8レースが終わったあたりに競馬場に着いたが、当然椅子席には座れない。いつもの18番柱あたりが混み合っていたので、19番柱のあたりの3階の手すりに取り付いて観戦することにした。 と、手すりの切れ目の横棒にコンビニのビニル袋がぶら下がっている。前の席の35歳くらいのアンちゃんが食い物のガラなどを捨てているようなのだった。チラと見るとハズレ馬券が3、4枚きちんと四つ折りに畳まれてゴミになっているのがあり、馬券の右下に60000円の数字が目に入った。えらく大金をつぎ込むものだ。 9レースの16頭立て河口湖特別が終わると、そのアンちゃんは再び3枚ほどの馬券を四つ折りにして、ゴミ袋に突っ込んだ。ちらと見ると100000円の数字。いったいこのアンちゃん、9レースにいくら金を突っ込んだんだ?隙をみてハズレ馬券をゴミ袋から取り出して確認すると、馬連5頭ボックスに1万円ずつ10万円。この5頭の三連複ボックス(10点になる)に10万円である。 俺のような年金生活者が2‐3‐5フォーメーションに100円ずつ12点を買うようなところに20数万円を賭けている。いったい何で稼いでいる奴なんだ。天皇賞の返し馬の時は一緒に来ている十人くらいの同世代の仲間とスマホで満員の場内の写真を撮っているノーテンキな男がなんでそんな大金をつぎ込んでいるのだ。 天皇賞は俺のスワーヴリチャードはスタートで包まれヤル気をなくし、10番キセキが先行したが、ルメールの2番人気レイデオロがゴール前で抜き去り、キセキは突っ込んできた9番サングレーザーにもハナ差で3着。300円だけ抑え馬券を取った。 アンちゃんたちはメーンの天皇賞が終わると席を立ち、ビニル袋がその場に残されたので、公安の捜査員のように中身を点検してやろうと思って手元に確保したが、最終12レースも外し、バカバカしくなって通路に捨ててきた。さもないなりをしたアンちゃんが1日で百万円を馬券に投じる時代なのだ。 |
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