日曜夜は国立の音楽茶屋「奏」で、三味線・新内の柳家小さんのボサノバと童謡を楽しんだ。小春さんは1991年、寄席音曲師、柳家紫朝に弟子入りし、江戸音曲の数々を習得し、そのCDも出している方だが、時にボサノバなども歌う。 その歌声に見せられたギターの加藤崇之氏が、ボサノバを表芸で歌わせたいと、フルートの北沢直子さんとバックを務めるトリオで、俺は「奏」では初めて聴いた。 いつもは和服に三味線を抱えてステージに立つスタイルだが、この日はワンピース姿。「ディサフィナード」「イパネマの娘」「白と黒の肖像画」などのボサノバをだどたどしい舌足らずのような声でしっとり歌い上げ、なぜか懐かしい感じ。 「月の砂漠」「もみじ」「七つの子」「浜辺の歌」「荒城の月」などの日本の歌も披露した。これらの歌は誰でも知っているから、知らず口に出していた。いつものライブとは異なり「奏」にはまったりとしたムードがいっぱいになった。 小春さんの歌は心の奥底に沁みてくる感じがした。加藤氏のギターは、その不良外人風の風貌には似あわず、とても繊細で見事なもので、小春さんのボサノバにぴったり。北沢さんのフルートは初めて聴いたが「荒城の月」などの間奏は、月に村雲三千丈という感じ。 いつもの小春さんのステージだと、口上も小春さんがやらざるをえないが、この日はMCなしで歌に専念。それがよかったのかもと思った。劇作家で駄洒落の名手、小田島雄志さんに「物事を知ろうとするのが素人、物事に苦労するのが玄人」というのがあるが、江戸音曲の玄人、小春さんが、素人としてボサノバを楽しんでいるから、このライブはなかなかだったと思えた。 |
|