「少年時代」といえば、井上陽水の名曲を思い起こされる方も多いだろうが、本日の「少年時代」は双葉文庫で絶版になっている作家、池永陽の小説である。10日につぶやいた「4月に読んだ本」で、「池永の『漂流家族』を読んだが、ほんとは読みたかったのは『少年時代』」としたら、このブログの熱心な読者である長女が「アマゾンで探したら1円で出ていた。送料はかかるけど」。 俺はいままで”密林”を使ったことはない。今後もそうだろう。それで、入手をお願いし送料350円+1円で500ページを超す文庫を手に入れた。表紙は子どもが川に飛び込む絵。そう、この小説は岐阜県の郡上八幡に伝わるある風習を大きなモチーフにしている。 それは吉田川にかかる新橋から、13b下の川面に飛び込めれば一人前の男になれるというもの。中学生になっても飛び込めずにいる主人公の良平は、仲の良い居酒屋の息子、正太、民宿の息子、達夫、医者のせがれ、博信と筏に乗っての川下りなどさまざまな冒険をする。 心優しい美人の姉(のちに心中死してしまう)や生徒思いの破天荒な女教師、美樹らに囲まれた良平は、少しずつ成長していく。そして営業不振で夜逃げした達夫一家、不倫を疑る父親から母親と一緒に町を出た正太、両親の離婚話のとばっちりで故郷を離れざるをえなくなった博信、年下の恋人と駆け落ちした美樹先生。独りになった良平は冬のある日、何も考えずに新橋から川に飛び込む。 淡い初恋もちりばめられ、波長の合う池永のたんたんとした文章も心地よく、たった2晩で読了した。2006年に出版されたこの小説。もっと話題になってもよかったのにな。甘くほろ苦い少年時代を思い出したいおじさんにも、お薦めのお話である。 |
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