おとといのバイト休みの日は、一日講義準備に追われた。某団体に頼まれてやっている読書感想文添削の仕事の一環で、年に2回、読書講座という90分の授業をやっており、これは口からでまかせという訳にはいかない。90分間しゃべる内容を京大式カードにあらかじめメモ書きするというのが習いである。 ことしの相手は大学2年生16人。出身地も専攻も異なる19、20歳が飽きないように授業するのは案外難しい。で、彼らが書いた感想文を手掛かりに、講義に入っていくことにした。メモは京大式カードにびっしり15枚。 それで昨夜、この学生たちが生活する寮の一室で行われた授業では、昨年11月の課題図書に選んだちくま新書、菅野仁著「友だち幻想」の感想文に、「ふだん自分が思っていたことが的確に書かれていると思った」「あったり前じゃんというのが、率直な印象。でも、それがきちんとした言葉で書かれていた」「この時期にいい課題図書を読ませてもらった」という学生の文章を紹介しながら、自分が考えていることを正確に言葉に落とし込むことの大切さを強調、さらに、文章にしておけば、しゃべったところで声が届かない遠くの人や後世の人にも自分の考えを伝えられると力説したのである。 彼らは毎月、文庫本などで課題図書として1冊、自由図書として1冊を読み、その感想文を800字にまとめることになっている。「同世代の若者で毎月2冊、きちんと本を読んでいる人間はそうはいない。4年たてば、人間の厚みが違ってくる」と持ち上げた。 では、どんな本を選んだらいいのか。名の通っている文学賞には芥川賞や直木賞があるが、「最近の芥川賞はちょっとピンとこない作品が多い。直木賞は私のようなおじさん向けが多い」と話し、「そして、バトンは渡された」(瀬尾まいこ著)でことし16回を数える本屋大賞の歴代の受賞作品なら「だいたい面白く読める」と過去の本屋大賞受賞作品とめぼしい上位入賞作品を紹介し、6月の課題図書を第1回の本屋大賞を取った「博士の愛した数式」(小川洋子著)にすると告げた。 今の二十歳前後が、あの阪神の左腕でデビューし、広島のリーグ優勝にも貢献した江夏豊を知らないのはしょうがないが、作中のエピソードである、江夏の背番号28が完全数(約数の1、2、4、7、14を合計すると28になる)であることを白板に書くと「へぇ!」という声が挙がった。 さて、この小説の感想文にどんなのが出てくるかが楽しみ。まぁ読んで何かを感じてくれれば感想文なんて実はどうでもいいんだけどね。80分しゃべり続けて、毎年同じことを教壇で話している大学のセンセは講義の準備をどうしているのかと思いました。 |
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