男にとって父親は乗り越えねばならない存在だ。その父が偉大だと、山を越えるのはつらくしんどい。父とは無縁な職種で生きるのも一つの手だと思うが、サラリーマン社会に生まれるとそうもいかないからなぁ。 大阪・吹田市で交番を襲い、巡査を包丁で刺して拳銃を奪って逃げた男(33)の父親で関西テレビ常務(63)が19日、一身上の都合で役員を辞任した。幸い警官は一命を取り留めそうだが、そんな事件を起こした息子の責任を取ったのだろう。 偉大な父を持つ親子の葛藤で、記憶に新しいのは農水省の事務次官まで務めた熊沢英昭(76)が家庭内暴力のあげく、長男(44)を刺し殺した事件だ。熊沢元次官は川崎市登戸の児童殺傷事件にショックを受け、せがれが同じような事件をしでかしてはと、自らの手で長男をあの世に送った。 犯行後、自分で警察に電話を掛け、せがれをあやめたことを知らせた元次官は、矜持なのか顔を伏せることなく手錠をされ、引き回されていた。何か所も刺されて死んだ長男は「俺の人生はいったい何なんだよ」と怒鳴ったこともあったらしい。その一方でネットに「俺の父と話すなんてキミらは百年早い」などという趣旨の書き込みをしていたという。立派な父を持つ長男の心はかなりねじくれていたようだ。 チェコ大使も務めたことのある元次官は、その地位ゆえか、せがれのことを社会に委ねることができず、自分だけで解決しようとしたみたい。高級官僚には家庭に恵まれないケースもままあることを俺も散見してきた。 8年前亡くなった我が友、赤司の父親は、竹橋の新聞社のメーンバンクの頭取だった。最近、彼を偲ぶ会で赤司の長女から「父は頭取の息子と言われるのが一番イヤだったと話していた」と聞いた。貧しき家に生まれて育つのも物質的には辛いが、作家、山口瞳の一人息子の例を挙げるまでもなく、偉大な親の下に生まれるのも辛いもんだな。 |
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