この十年、某団体に頼まれてやっている、大学生相手の読書感想文の添削と年2回の読書講座。講座ではそんなに変わったことをしゃべれるはずもなく「波長の合う作家を見つけたら、全作品を読むといい」と毎回、力説している。作家の人となりを知れば知るほど、作品への愛着が湧くはずという理由からだ。 そうして俺は20代は吉行淳之介、30代は宮本輝、40代は藤沢周平と宮城谷昌光、50代は山本一力、宇江佐真理、60台は葉室麟を読んできた。輝さんを除いてみな鬼籍に入り、これからさて、どの作家に注目しようかと思った時、3月に「みをつくし料理帖」を読みふけった高田郁(かおる)を思い出した。 二女から勧められた「三昧聖」(今でいうならエンバーマー)を取り上げた『出世花』に感心し、黒木華主演のテレビドラマがよかった『みをつくし料理帖』の10巻を、あっという間に読み通したのだった。昨年はルソーやピカソを取り上げた原田マハを集中的に読んだのだが、書店の時代物の棚に『あきない世傳 金と銀』というのがあり、ちょっと読んでみようかと手にしたのが立秋のちょっと前だった。 兵庫の学者の家に生まれた幸が、父と兄の死を機に大阪天満の呉服屋「五鈴屋」に9歳で奉公に上がり、「お家はん」に可愛がられ、放蕩息子の四代目の嫁になり、四代目の急死の後、後を継いだ弟の妻となり、商売では「幸にはかなわない」と出奔した五代目の後を継いだ戯作者修行をしていたその弟の六代目の妻となり、創意工夫で店を大きくした。しかし、その六代目も病気で失う。臨時措置で七代目となった幸は、六代目の夢だった江戸進出を果たすという物語。 高田さんは寒天を扱った『銀二貫』では自分で天草を煮て寒天を作り、作品に生かしたホンマモンの人。俺は呉服の世界は全く知らないのだが、「買うての幸い、売っての幸せ」をモットーとする「五鈴屋」の商いには大いに賛同するもので、どうやったらお客に喜んでもらえるかを、番頭・手代と一緒に工夫する幸の姿にほれ込み、1日文庫本1冊のペースで読み進み、今月発売の7巻目(江戸での商いが中心)を今夜には読み終わろうとしている。 絹にも木綿にも造詣がなく、ましてや帯のことなど知らない俺のような人間が、これだけ没頭できるのだから、和服に親しんでいる人が手にすれば、そうそうと思うことが多いのではないか。高田さんはそのあたりの考証もしっかりしているとみた。 文庫書き下ろしという手法は、『居眠り磐根』『酔いどれ小藤次』の佐伯泰英によって確立されたとみるが、今は文庫での出版しかない高田郁はそのうちに絶対、単行本の世界に出てくると思うな。 |
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