校閲のアルバイトに行く日は背広を着ていくことにしている。今はクールビズだから、ユニクロのボタンダウンの半袖シャツを下に着ればいいし、冬場は白ワイシャツにネクタイを締めればいいから、コーディネートに気を使うことはそうない。ラフな格好は存外取り合わせが難しいのだ。 バイトは週3日だから、週5時代の背広の、よれてきたのから処分し、今は夏用4セット、冬用4セットを持っている。これを順番にころがすわけだ。先週木曜日、富山の芝刈りツアーから遅くに戻り、金曜日に来ていく夏背広の上下を鴨居にぶら下げて就寝。朝、パタパタと起きて、朝ドラ「スカーレット」の子役の達者な演技にうなり、火野正平さんのチャリが北陸路を走るのを見てから西国駅前の「エ・プロント」でモーニングを頼んだら、あれー!? 背広の上着はグレーなのに、ズボンは淡いブルーだった。前夜ちょっと疲れていて薄暗かったのか、セットを間違えたのだ。「いいや、俺の背広の色なんて誰も気にしてなんかいない」とそのまま電車に乗り、バイト先に。上着は椅子に引っ掛けたままにし、いつもは昼休みにメシに出るときは上着を着るのだが、内ポケットの長財布から野口英世を1枚引き抜いて外に出た。 長年の勤め人生活で背広には親しんでいるが、上下を取り違えたのは35年ほど前、農水省の記者クラブにいた時以来、人生2度目。この時は夜どこかの会社の懇談会が予定されていたので、さすがに格好が悪いと当時はウチにいたカミサンに電話して、上着を霞が関まで持ってきてもらった。あの時は2着あった紺色の背広のストライプがちょっと違うのを間違えたのだった。カミサンはまだ幼稚園にも上がらない次女を連れて役所に登場。日比谷公園で次女をちょっと遊ばせたっけなぁ。 上下の食い違いを誰にも気づかれずに過ごせたと思っていたら、金曜夜寄った贔屓の力持ち美人のマッサージで「これって、ニューファッションなの?」と鋭く指摘されてしまった。力持ち美人の目配りはハンパじゃないのである。誰にも気づかれないと思っていたが、気づかれないのも寂しいもの……。それで、ちょっとだけ嬉しかったのである。 |
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