イラクがクウェートに侵攻した30年前の90年夏、「出光石油資料」というデータブックにはずいぶん救われた。当時、エネルギー担当で、輸入原油の9割以上を中東に頼っている日本。中東各国からどのくらいの量の原油が輸入されているのか、それらのデータはこの資料を見れば一目でわかるのだった。 出光興産の広報マン、Nくんは要所要所で経団連ビルの中にあったエネルギー記者クラブに駐在し、「この数字は?」などのクラブ員の問いに即座に答えていた。ちょうど記者クラブの幹事社をしていたので、侵攻が落ち着いたころ、勝手に「広報マンオブザイヤー」の表彰状を作り、クラブの公印を逆さに押して進呈したら「家宝にします」とのことだった。 こういうデータブックはトップカンパニーが業界の地位向上のため、作成するのがならい。客観性と正確性が何より求められる。いま校閲のバイト先でゲラのチェックをしているのが、医療・薬事のデータブックだ。業界2位の某社がもう10年以上も前から刊行している。この作成をバイト先が請け負っているのだ。 100ページ以上あるしっかりとしたデータブックで、医療保険制度の変遷とか医療従事者の数とか売れ筋の医薬品など、毎年変動があるため、年1回発行されている。下請けの会社が厚生労働省などのサイトからデータを入手し、前年の資料に加えていく。俺と相棒の同期のMくんがやっているのは、その数字チェックが主だが、字が細かいうえゲラ段階での誤りがほとんどないため、目がヒジョーに疲れる。 今週から着手し通常の校閲作業をやりながら既に10時間以上取り組んでいるが、これまでに発見できた数字の誤りは3箇所のみ。いつもやっている記者発表資料の校閲作業だと、A4の紙1枚に2〜3箇所の「朱」が入るが、このデータブックのゲラには「朱」がほとんど入らないのが困る。 とはいえ、100%の正確性が求められるので気が抜けない。この作業をするのはバイトを始めてから3回目だが、やるたびに視力が0.1ずつ低下する気がするね。ちなみに同僚の絶世の美女は目がつぶれたくないから、やりたくないんだそう。正しい判断だね。 |
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