今の日本で「知の巨人」といえば、ノンフィクション作家の立花隆(79)といっても差し支えないだろう。1970年代に田中金脈を追及したのを手始めに農協、宇宙飛行、脳死、サル学、学生運動、生命科学、がん研究などそのフィールドは幅広いうえに、分析力、わかりやすく説き明かす力は並大抵ではない。俺などは立花と同世代に生きてきたことは僥倖であると思うほどである。 いつだったか、立花が「小説は読まない。時間がもったいない」と述べているのを見て、そりゃ寂しいのではないかと感じたのだが、今週文春新書から出たばかりの彼の「知の旅は終わらない」を読み、それは間違いだったと思い直した。この新書は「僕が3万冊を読み100冊を書いて考えてきたこと」の副題がついているように、立花が少年時代から読んできた本や、取り組んできた分野で参考にした書物などについて、平易な筆で書き綴っているのだが、十代の立花は国内外の浩瀚な小説をむちゃくちゃに読みあさっており、その量たるやとんでもないのである。読むべきフィクションの古典は全て読んでいるのだった。 立花は角栄でも宇宙でもがんでも、一つのテーマに取り掛かる前には、その分野の書物をベラボーに買い込む。そのため、書庫のような地上3階、地下2階建の「ネコビル」を持っており、13年に出版された「立花隆の本棚」は20万冊近い本棚の蔵書をプロの写真家が撮影し、なぜその本があるのかを立花自身が語ったすごい本だ。 この新書で知ったのは、彼が60年安保の時、反核を訴える学生の代表として欧州を半年かけて廻った経験を持つのと、イスラエルとかエーゲ文明に現地で浸り切った時期があることだ。この新書のなかで彼は「エーゲ 永遠回帰の海」(2005年刊)を自分が書いた本のなかでは3本の指に入ると言っているので、今度じっくり読んでみようかと思っているところだ。 |
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