竹橋の会社の中国語研究仲間に人事部のNくんがいる。いや、いたと言うべきか。けして上手な打ち手とは言えない乱暴な雀風だが、時にモーレツな引きの強さを見せ、けっこう高い勝率を誇っていた。しかし、コロナのため中国語研究は3月から中断の憂き目にあった。 俺たち、社会的に何ら糾弾されることのないリタイア組は非常事態宣言明けの6月からしっかり2bのソーシャルディスタンスを保ちながら(?)、検温、マスクの関門を経て、雀荘という研究会場に平気で出入りしているのだが、Nくんは人事というお立場が頭をよぎり勉強会には参加できずにいる。 先週土曜日も勉強会が予定されていた。別件でNくんに電話で話すうち、彼が「囲んでいるんでしょ。土曜日のメンツは?」と聞くから「Kくんの都合が悪くなって流そうと思っているんだ」と回答。 するとさも加わりたそうな口ぶりで「えーっ、そろそろいいかな。いや、やっぱりだめかな」。しばらくして土曜日の他の参加予定者を訪ねるメールがきた。で「囲まない人間に教えるいわれはない」とそっけなく返信した。すると「広告のエース、てっちゃんは?」と言うので「ノーコメント」。するとNくんは「てっちゃんはやっているんだ。コロナになったらまずいよ」。 人間、誰しもウソは付きたくない。でもイエスとは言えない。それで口をついて出たのが「ノーコメント」の言葉だった。で、1988年に発覚したリクルート事件のときのあるエピソードを思い出した。 築地の新聞社の大スクープで切って落とされた取材合戦。竹橋の会社の経済部出身の前編集局長U氏も、リクルートの未公開株をもらっていたことが雑誌に載った。 ほどなくして竹橋の会社の新聞の1面に「日経森田社長も未公開株取得、本社前編集局長も」という記事が出た。取材もせずに後追い記事は書けない。どういう風にU氏に確認を取ったのか。いろいろ聞いて回ったところ、現編集局長M氏が前編集局長U氏に電話を掛け「いろいろ出てますが」と問い質し、その時のU氏の答えが「ノーコメント」。 事実でなければ強く否定すればよいのだが……。私が禄を食んでいた新聞業界では、ギリギリの質問に対する「ノーコメント」の答えはイエスなのである。 |
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