「管理せず管理もされず原稿をただ書くだけの良き暮らしかな」この31文字は竹橋の新聞社を定年になり、政策情報誌の編集部にキャリアスタッフで残ることになった時、ものした短歌もどきだが、59歳になる今まで、一度も管理職にならず好きな原稿を書き続けている雀友にFくんがいる。 そのFくんが2005年に開高健ノンフィクション賞を受賞した「絵はがきにされた少年」の再刊記念講演会を開くというので、どんなことを話すのか興味があり、先週金曜日、3カ月ぶりに山手線の中に出撃した。 彼がローマ特派員時代、俺が社内報に書いた赤司の追悼文に目を止め、どんな人間か気になっていたというFくん。それで、60を過ぎてから麻雀友達となった不思議な縁である。雀友というのは普段、仕事の話などせずひたすら牌に向き合っている。それで何を考えているかは紙面に載る署名原稿からしか、うかがい知ることはできないが、Fくんの根っこを知るには出版記念講演会はいいチャンスだと思った。 9・11の事件に触発されて書く気になったというこの本は、11の物語からなっており、Fくんのアフリカへの思いが詰まっている。コロナのため25人に限定された聴衆を前に、Fくんはスライドなどを駆使して熱く本音を語った。文体の工夫など非常に面白く聴けた。 終わって新刊書を定価の2割引きで発売もしたのだが、サインを求められたFくんの他は、お手伝いは女性一人しかいなかったので、首席随員として俺が売り方を手伝った。Fくんは今回の再刊に際し名刺大の自身の紹介カードも作成。こういうのの手渡し作業は案外手間がかかるのである。北大出身のFくんは札幌の小さな出版社から再刊したので、PR要員を欠いているのだ。 表現者というのは、とにかく作品を見てほしい、聴いてほしいものなんである。そんなムードに満ち溢れた小さな講演会。俺もサイン入り2割引き新刊を入手したから、早速読み直してみよう。背景がよく理解できたから、15年前に読んだときとはまた別の読み方ができるだろうな。 |
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