「南ベトナム戦争従軍記」(岩波新書)などの著作のある岡村昭彦という写真家がいる。もう36年前の1985年に亡くなった方だから、今その名を聞いてピンと来る人は俺のような年配の人間しかいないだろうと思うのだが、この前の日曜、国立・奏の柳家小春さんのライブで、小春さんに日本酒の誕生日プレゼントをした福島出身の佐藤くんと、終演後に雑談をしていて彼が岡村の本を持っているのにビックリした。 「俺はねぇ、頼れる兄貴という存在が欲しかったんだよ。岡村昭彦に『兄貴として伝えたいこと』という本があるんだけど」と口にしたら、佐藤くんが岡村の活動を語り継ぐ団体の岡村についてのムックを手提げ袋から取り出し「えーっ、この本きょう買ったんです」。 佐藤くんからは2カ月ほど前、朝日新聞の編集委員で大分は日田通信部にいる近藤康太郎の文章論をまとめた「三行で撃つ」を紹介してもらい、早速手にしたことがあった。そんな本好きの40そこそこの佐藤くんだから岡村に興味を持っても不思議はないが、今時、岡村に関心のある人がこんなにいるんだ、と嬉しくなった。 俺はべ兵連の活動が脚光を浴びていた学生時代、大学の講堂で岡村の講演を聴いたことがあり、その時岡村が履いていた赤い靴にしびれ「カッコいいなぁ」と感動した経験がある。あの時の講演が記者を目指すきっかけにもなった。 佐藤くんとの雑談では「経済部の記者として長年、記事を書いてきたけど、経済の記事なんて30年後に読み返してみても何のためにもならない。ただ、書評は今読んでも参考にはなると思う。結局、時代を経て残るのは『文化』なんだと思う」と持論を開陳した。一生懸命聴いてくれた佐藤くんに今度、俺が手掛けた書評をコピーして差し上げようかな。 |
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