中国語研究仲間のてっちゃんが6月に新聞関連企業の社長に就任することになった。社長になると時間の制約があり、中国語の勉強が満足にできなくなるうらみはあるが、乞われてトップになるんだから慶賀すべきことであろう。 彼には俺が栃木の新聞社に行くことが決まった晩、先約を取り消してまで、彼の銀座のなじみの店でゴチになった恩義がある。あの晩はカラオケに興じ持ち歌三千曲の俺もタジタジになるほど、彼の歌はなかなかだった。 社長になるのだから、何かお祝いをしなければなるまい。彼が社内で出世するたびに記念の本を贈ってきた。この3月の63歳の誕生日には黒井千次の「老いの楽しみ」という中公新書をプレゼントした。老いについては俺の方が先輩だから、本も選びやすかったが、俺は社長にはなったことがないので、どんな本を選んだらいいか悩んだ。 俺の敬愛する藤沢周平さんの著作からとも思ったが、山形県人のてっちゃんは郷土の大先輩、周平さんの小説はほとんど読んでいるとのこと。う〜ん困った。トップの生き方なら、国鉄総裁になった石田禮助の生き方を描いた城山三郎の「粗にして野だが卑ではない」がピッタリなのだが、卑しくないてっちゃんは絶対すでにひも解いているだろう。 日本興業銀行の頭取を務めた財界鞍馬天狗、中山素平を描いた小説もいいんだが、ちと古いしなぁ。で、落ち着いたのは詩人、茨木のり子の本である。「倚(よ)りかからず」とか「私がきれいだったころ」などの詩のある茨木は、凛としていて母親はなんと山形県の庄内地方の生まれで、庄内弁を聞いて育ったのだ。 で、国分寺の紀伊国屋書店に出掛け茨木の名著「言の葉さやげ」(1975年刊)を探したがない。2010年に出た後藤正治の茨木の生涯を描いた「清冽」もない。それで俺の本の殿堂に鎮座している「清冽」を引っ張り出し、ちょっときれいにして筆ペンで社長就任記念と書いて、この前の勉強会の際に差し上げた。 社長に詩というのもなんだが、一橋大学のOB会、如水会の理事長も務めた味の素の江頭邦雄社長が、「経営者の8条件」の中に「品格」などと並んで「詩心(うたごころ)」というのも挙げておられたからなぁ。 |
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