秋田で仕事をしていた四半世紀前、隔週で「支局の目」という似顔絵付きの70行のコラムを書いていた。2年半の在任中に書いた50本余りの原稿の中で、一番反響があったのが「コメの味」というタイトルだった。 あきたこまちの里なのに、外食でおいしいご飯を食べさせる店にめったにお目にかからない。コメの液体にばかり頭がいくからか。これでは美人を育てる秋田米の標語が笑いものになってしまう。どんな飲食店でもおいしいご飯を提供する。こんなサービスから観光秋田は変わっていくのではないか、という内容で、「ロクに取材もしないで……。ウチのうまいメシを食ってから書け」というお店の方がいらしたら、ぜひ連絡を。喜んで食べに行きますと結んだ。 すると、どこかの町の観光協会から「全くお説の通り。旅館におかずのハムを1枚減らしてもおいしいご飯を出してと指導しているのだが、おかずの方に頭が行ってしまって……」と電話があった。まったく歳を重ねてくると、うまい飯さえあれば、おかずなんてどうでも、という気持ちになってくる。 昨夜は久々にうまい飯を食べた。栃木の知り合いが贈ってくれたコシヒカリの新米を炊いて、卵掛けごはんにして食ったのである。ほかほかのメシに掛ける玉子。こりゃ、うまいで。 この新米の贈り主は宇都宮時代、毎日のように寄っていた喫茶店「B」の常連で、栄養士をしているK嬢。宇都宮を去る時に向こうで買った液晶テレビを引き取ってもらった。9月が誕生日で今年もお祝いの絵葉書を出したら、100円ちょっとのコストしかかかっていない筆ペン書きが、5`のコシヒカリとおいしいふりかけに化けた。ゆうパックに入っていたお便りによると、コロナで「B」にはあまり行けない日々だが、また会える日を楽しみにしていますとあった。 実家が農家の彼女は常々、「ウチのコメはおいしいのよ」と話していて、昨秋も誕生祝の絵葉書でコメを頂戴した。去年のコメもうまかったが、今回はコメの袋に書いてあった「炊く前に40分は水にひたせ」をちゃんと守ったから、とてもおいしく炊けたのである。新米が出回るこの時期、持つべきはコメ農家の知り合いか。 |
|