学生時代は独り旅が好きで、バドミントン部の合宿のない時期を狙ってよく出かけた。俺は岬がなぜか好きで、岬の突端までたどり着くのに時間がかかるのが常だった。そうやって九州最南端の佐多岬にも四国の足摺岬にも行った。北海道は宗谷岬か。突端まで行くのは無理だったが、知床にも足を運んだなぁ。 なぜ岬が好きなのか。陸地が海に落ちるところ。そこにロマンを感ずるというしかないか。この前NHKBSで「あの胸が岬のように遠かった」というドラマを観た。 歌詠みで分子生物学者の永田和宏(京大名誉教授)が2010年に亡くなったやはり歌詠みの妻で若くして角川短歌賞を受賞した妻河野裕子との出会いから結婚に至るまでを綴った原作に基づくドラマで、永田の役を柄本佑、裕子役を藤野涼子(朝ドラ『ひよっこ』で頭のいい豊子役をやった)が、見事に演じていた。 「読んでからみるか、みてから読むか」は大昔の角川映画の惹句だったと記憶するが、この永田和宏による青春の書「あの胸が岬のように遠かった」(新潮社刊)はみてから読んだのである。 それによると、河野の死後、永田が結婚前に彼女に送った手紙や、その当時河野がつけていた膨大な日記が見つかり、永田ともう一人の男Nとの間で揺れ動く河野の気持ちがそこに記され、この葛藤から教科書にも載っている河野の短歌「たとえば君ガサッと落葉すくふやうにわたしを攫って行っては呉れぬか」も生まれたことがわかる。 テレビドラマでは年老いた永田本人も登場し、ボソボソと過去を語るシーンもあって、少々痛々しいのではあったが、50年も前の自分たちの純愛が描かれ、こそばゆい思いをしたのではないか。 タイトルは好き合っていても、乳房の胸に手が伸びるにはなかなか時間を要したことを意味している。そうなると、俺が岬を好きな理由も分かる気もするね。 |
|