大学生向け読書感想文の課題図書にでもしない限り、めったに本を読み返すことはしないのだが、正月51年ぶりにある新書を再読した。成蹊大学教授だった哲学者市井三郎著の講談社現代新書「『明治維新』の哲学」である。この本、なぜかいつも本棚の大事な本を置く場所にあり、表紙を開けると1549とナンバーを振った赤い蔵書印が押してあり、読み始めの日時が1971年5月6日。大学3年の時だな。奥付には71年5月13日読了と万年筆で書いてある。 尊王攘夷を叫んだ勤王の志士による政治運動が徳川幕府を倒すに至ると、急速に開国を志向し明治政府を作り世界に羽ばたいていく明治維新の不思議さは昔から大きな疑問だった。この新書はそのあたりの思想的な流れを解説しているため、ずっと手元にあったと思われる。 第1章の「歴史の進歩とは何か」の口絵はピカソのゲルニカ。読み始めると「人間の愚かさを減らそうと思う人間の意欲そのものが激しく発揮されるときには、しばしば他の愚かさを増大する」とか「市民革命はおのおのの人間が自分の責任を問われる必要のない事柄から、さまざまな苦痛を受ける度合を減らさねばならないという原則がある」の文章に、当時使っていた緑色のボールペンで棒線が引かれてある。 いま俺は本に棒線を引くことはないが、51年前はそんな読み方をしていたのか。「科学・技術の進歩がもたらしうる苦痛が減らされてこそ人間の歴史は進歩したといえる」にも棒線が。その通りであるなぁ。第5章の「外国条約と安政の大獄」では大老、井伊直弼の大弾圧が幕府権力への最大の致命傷を与えたとし「死罪は殉教の輝きを生み出す」というところにも緑色の棒線が引かれてある。このあたり、51年前に戻ったようで面白かった。 なかなか漢字の多い新書なので、51年前と同様、読み終えるのに1週間かかった。なかかな面白かった。この新書、定価250円とある。現代の新書の値段はだいたい900円前後だから50年間で4倍になっている。当時から愛煙している20本入りのセブンスターが現在600円で当時は150円だったと記憶しているから、こちらも4倍。不思議に符合していると妙なところで感心したのだった。 |
|