2年前コロナで校閲のアルバイトが雇い止めになり素浪人となった俺が、唯一社会とつながっているのが、読書感想文の課題図書の選定と添削のアルバイトだ。某団体が運営している学生寮の大学1年生25人が相手。 俺は読書感想文を書かせることが本ギライを生む一因になっていると考えている人間なので、そんなことにならないよう本の選定にはけっこうリキを入れ、読んで絶対面白い本を課題に出すようにしている。そして、読んだ感動を友人に伝えるよう、思いを字に落とし込んでと常々強調している。 このバイトでは年に2回、読書講座という授業をやることになっていて、先週学生寮に出向いて1時間半しゃべってきた。学生たちに会うのは昨年5月に続いて2回目。 5月の時は入寮して間もないし、そこで話したことはそう覚えてはいまい、大事なことは何度でも言うのが正しいと思い、我々は何故本を読まねばならないか、文章を書く際は「「カンカラコモデケア」=感動、カラフル、今日性、問題意識、データ、決意、明るさ=を頭においてと強調した。 この1年生には昨年5月以降、課題図書として「ひと」(小野寺史宜)、「鉄道員」(浅田次郎)、「風が強く吹いている」(三浦しをん)、「友だち幻想」(菅野仁)、「下町やぶさか診療所」(池永陽)、「恋いちもんめ」(宇江佐真理)、「楽園のカンヴァス」(原田マハ)、「〇に近い△を生きる」(鎌田實)の8冊を課題に出したが、その中で一番良かった本を尋ねてみて「ほう!」と思ったことがあった。 挙手を数えると、「ひと」「友だち」「恋」「〇」はゼロ。「鉄道員」と「楽園」が1票だったのに対し、「下町」が7票、「風」が4票を集め、さほど有名でもない作家池永陽の「下町やぶさか診療所」が一番支持を集めたことだ。大先生と呼ばれる老医師とそこに転がり込んだ訳ありの女子高生の心の交流を描いたこの本。「映画化するとしたら、大先生は誰がいい?」と問うたら、「三浦友和」の名前が出て、また「ほう!」と思った。 この「勝手にキャスティング」はかつてサラリーマンページで、「マディソン郡の橋」を映画化するとしたら主人公はどの俳優に演じさせたいかを記事にした手法で、やってみるとなかなか楽しいのだ。 今回の授業も学生はマスクをしたまま。何度かの感動文のチェックで個々の学生名とその肉筆についてはほぼ一致するようになったが、名前と顔はまだ一致しない。名前と顔が分かってこそ、教えられるというものだよな。 × × × × 今週の拙宅の花は白い大輪のバラ「アバランチェ」と青いスイートピーです。 |
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