毎日新聞の大型書評欄を創るのに主導的役割を果たした作家の故・丸谷才一に「良い書評とはそれを読んだら、お金を握って書店に駆け出したくなるような内容」というのがあった。書評ではないのだが、おととい大学1年女子のK嬢の自由図書読書感想文をみていたら、この文庫本は読まねばという気持になった。 初めて聞く作家の名前は宿野かほる。タイトルは「ルビンの壺が割れた」。17年に新潮社から刊行され、20年に新潮文庫になった。「本があまり好きではない私にもスイスイ読めた。メールのやり取りだけの内容だが、大ドンデン返しがすごい」とあって、800字の感想文の後ろの余白に「ぜひ読んでみてください」という添え書きまである。 受け持ちの学生にここまで言われることはあまりない。で、財布から1000円札をつかみ取り、西国駅前のR文堂に走った。しかし、棚には宮部みゆきや三浦しをんの文庫本が並んでいるだけで、宿野の本はない。国分寺駅ビル8階の紀伊国屋書店にも足を伸ばしたが、見当たらない。こういう時は国立の増田書店だと思って、中央線で取って返し、増田の棚を丹念に見たがないのもはない。 すると贔屓の西條奈加の新刊「わかれ縁」(文春文庫)が目にとまり、迷わず購入。おとといの夜中は、離縁相談を専門にする「公事宿」が舞台というユニークな設定に引き込まれ、一気読みしてしまった。 で、きのうは巨大なフロアを誇る立川のジュンク堂に出撃。ありました、ありました。宿野の2作目「はるか」も書棚に並んでいた。「ルビン」の文庫の帯には「口コミだけで20万部!ただただ圧倒的に面白い!」とある。170ページほどの分量で、文庫本にある解説はなく、担当編集者の付記が珍しく付いている。 エクセルシオールカフェに入って約1時間、一気に読んだ。なかなか文章がうまく、最後のドンデン返しも、う〜ん、そう来たか!見事なものである。よくもまぁ、こんなストーリーを考え付いたものだ。老いては教え子に従え、かと思いましたね。巣籠り生活をしていると、雑誌もあまり手にしないから、この手の本の評判を見落とすことになる。口コミというのは一番効くね。 |
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