ふーっ、久しぶりにハードな本を読み切った。今、スクープといえば新聞ではなく、週刊文春のお家芸となっているが、この「文春砲」がさく裂した2016年とそこに至るまでの経過、その後の文芸春秋社の取り組みを、豊富なインタビューを基に綴った柳澤健氏の「2016年の週刊文春」(光文社未来ライブラリー)である。 20年12月に光文社から出た単行本の存在はまったく知らなかったが、これに加筆修正して文庫化した730ページの大冊。この4月に出た。著者の柳澤氏は花田紀凱編集長時代の週刊文春編集部に在籍していた文春内部をよく知るノンフィクションライターだから、エピソードや歴代幹部の人物像も具体的。雑誌が読まれるには絶対のスクープが欠かせないというセンテンススプリングにこのところ新聞は押され放しだなぁ。 俺が記憶している週刊文春のスクープというと、「小沢一郎 妻からの『離縁状』」(12年6月)、「全聾の作曲家 佐村河内守はペテン師だった!」(14年2月)、「ベッキー禁断愛 お相手は紅白出場歌手!」(16年1月)、「甘利明大臣事務所に賄賂1200万円」(16年1月)、「舛添知事『公用車』で毎週末『温泉地別荘』通い」(16年5月)など。これらのスクープの指揮を執ったのが新谷学編集長(現月刊文芸春秋編集長)。 その新谷もデジタル化を進めようとして、社内の抵抗に遭ったり、グラビアに掲載した春画が幹部の逆鱗に触れ、15年10月から3カ月休養を命じられたこともあるのだ。17年に出た「『週刊文春』編集長の仕事術」(ダイヤモンド社)という本で新谷氏というのはとんでもない力量の持ち主であることは知っていたが、保守的な社内で出る杭は打たれながらデジタル化を進めていく姿勢にも共感した。 このスクープ重視のスタンスは、66年に入社し、週刊文春の名編集長と言われた花田紀凱以来の伝統でもあるのだが、花田に仕えたこともある著者は週刊新潮に追いつけ追い越せと奮闘してきた70年代、80年代の文春の歴史も詳述。84年の「疑惑の銃弾」の取材裏話も乗っている。同時代を第一線で生きてきた俺なんか、そうだったのかと思わされる内容ばかりで、とてもエキサイティングな分厚い文庫本だったのだ。 |
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