ナンコ―という四半世紀前からの不思議な知り合いがいる。かつては室内装飾の会社を経営する一方、夜な夜な絵を描き国立で個展を開いたこともある。今は年の半分をタイはチェンマイでゴルフ三昧の生活。半分は日本で木工細工をしているか、株式のデイトレーダー。 そのナンコ―は俺より1学年下だが、俺と同じうさぎ年の生まれで、10月10日のかつてのスポーツの日が誕生日である。ずっと独り身を通しており、身寄りのない男だから、日本にいるなら72歳の誕生日を祝ってあげようと先週メールしたら、「先々週にタイから帰国した」と電話がかかってきた。で、きのう昼、国立の最高級中華の店「香来」でメシをご馳走した。 ナンコ―も俺も酒は飲まないから、極めて安上がりのバースデープレゼントである。日本で2番目にうまいと思っている焼き餃子と豚肉とイカの甘辛炒め、それにナンコ―は好物の広東面(小)。俺はこの1年、昼メシは食べないことにしているので、餃子と炒めものに手を出す程度。 1年前にも「香来」でお祝いをしたのだが、その時に比べえらく痩せているのに気付いた。レーニン似だった顔が、絶食している高僧のようになっていた。彼は身長が171aあるのだが、「いっときは57`まで落ちた。あばら骨が浮き出るほどだった。そうなるとゴルフの球が全然飛ばない。今は体調も戻りつつあって、体重も60`を超えた。ありゃ、何だったのか」。タイの医者はほぼ全員が欧米への留学経験があるが、その医者たちも原因が分からなかったらしい。 まぁ、ともかく、一時のヤバい状態は脱したようだ。何と言っても1学年下の男。先に逝かれては困る。中華の後はタバコが吸える駅前の「エクセルシオール」。ここはコーヒーをごちになった。その上、6年前に彼からもらった曼荼羅のような不思議な線画に色彩を付けた作品をもらった。美大出身のナンコ―がついにたどり着いた究極の絵という説明をかつて受けたことがあったが、その色付きの作品というのだから、将来は高く売れるかもしれない。 ナンコ―は美大の先輩からこの作品の意図はこういうものだろうという長文の手紙をタイでもらったとかで、たった一人でも分かってくれる人間がいたことに感動したらしい。俺は立派な額に入った曼荼羅の線画の絵を、テレビ視聴の邪魔にはならないとみて、リビングのテレビの上の壁に掛けていたが、色がついても大丈夫と思って、額縁の中身を早速入れ替えたのでした。 |
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