銀座に一軒だけ持っているバー「四馬路」のママ、以久子さんの誕生日は3月15日、先週の金曜日だった。例年ならそのあたりに酒飲みに出撃するところだが、ことしは病後に加え、翌日が優勝しなければならないゴルフコンペが入っていたため、店におめでとうの電話を掛けるだけとなった。で、「正月に心筋梗塞で死に損なった」と話したら「私もなのよ。店を閉めることも多いわね」と言う。 そりゃ、同病相哀れむだ、「来週顔を出すから」と約束し、それがきのうの晩となった。出掛けに大相撲春場所で、大関豊昇龍と琴ノ若が番付の違いを見せ、勝ち星を重ねている新鋭、尊富士と大の里を下す取り組みを見ていたため出陣が遅れた。 7時半、地下の店に着くと以久子さんはラーメンを食べたばかりということでカウンターの中で歯を磨いていた。妹2人と弟3人をがんで亡くしている彼女は、自分もがんになるものだと思い、区役所からの健康診断の通知は完全無視していたが、3年ほど前息切れがひどいので近所の町医者にみてもらったところ、心臓に不調がみつかり、大病院に行って検査してもらった結果、心臓の機能が低下しており、10年前にも心筋梗塞に罹患していたことがわかったとか。 カテーテルなどの手術はしていないが、命が惜しくなりけっこうなスモーカーだったが、キッパリタバコを止めたとか。昨年は青森・弘前に住む94歳の母親の具合が悪く何度も往復した。その母親も2月に亡くなり、バーの経営もそろそろ潮時で弘前に引っ込むことを本気で考え始めたみたい。 6、7年前はロールキャベツ定食一品で昼間も営業し、それが「孤独のグルメ」に取り上げられたこともあったのだが、あまりに収入が少ないので昼の部は止めたとか。元気そのものだった以久子さんも来年は後期高齢者入りなのだ。40年も前に離婚をきっかけに新宿のゴールデン街に出したバーが銀座への進出を果たした末に閉店を迎えようとしている。いろいろな出会いのあった店なのだが……。
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